うちの母が、作家・音楽家の新井満さんへ手紙を出したそうです。
その手紙をどうしても掲載して欲しいとのことですので掲載します。
かなりの長文ですみませんが。
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拝啓
春色のなごやかな季節、新井先生の多方面にわたるご活躍お喜び申し上げます。
さて、見知らぬ者が突然のお手紙を差し上げる失礼をどうぞお許しくださいませ。私は、栃木県栃木市に在住する峯岸美代子(74歳)と申します。自筆にて差し上げねばならないところ、目が悪いため娘のワープロでの代筆にて、重ね重ね失礼いたします。
実は、約5年前と思いますが、NHKラジオで先生の
「千の風になって」のお話しと歌をお聞きしました。特に歌詞に強く心を惹かれ、早速「千の風になって」のCDを買わせていただきました。それには、次のような理由がございました。
私の主人は48歳の時に肺繊維症という難病を発病しながらも、奇跡的に20年の年月をなんとか乗り越えて参りましたが、もうこの時は、在宅酸素療法となって数年経ち、徐々に病状も悪化しておりました。結婚して40数年となっていましたが、もう一緒にいられるのは、そう長くはないと思っていた矢先でもあり、遺された時にせめてこの詩のように思いたいと心に秘めておりました。
病院に行く時にはこの曲をかけ、主人と二人で聴きました。平成17年9月、主人は病院で急逝いたしました。臨終に間に合わず、言葉をかわすことなく旅立ってしまいました。主人の遺言で自宅にてお別れの会を行い、その際に先生の「千の風になって」のCDをかけて送り出しました。遺骨は、やはり遺言通り、家を見下ろせる我家の山に埋葬しました。主人が亡くなる直前のことを思うととても辛かったのですが、主人は彼岸で元気になっていると自分に言い聞かせておりました。
年が明けて平成18年3月の彼岸頃、知人の方が、主人公のアナグマが主人の人柄によく似ていると言って、一冊の絵本、
スーザン・バーレイ作「わすれられないおくりもの」を贈っていただきました。本の内容の一つ一つが、主人と子ども達との思い出としてよみがえり、心が慰められましたので、主人に読んであげたくなり、毎朝読経の後に仏壇の前で読んでおりました。
約二ヶ月位経った頃、本当に
アナグマが家にやってきました。正確には入り込んで来ました。田舎暮らしですので、タヌキ、キツネ、鹿、イノシシ、クマ等様々な動物がやって来ますが、今までアナグマを見かけたことはなく、生前主人からも聞いたことがありませんでした。毎朝、アナグマの絵本を読んでいるところへ、本物のアナグマが現れたのですから、本当に驚きました。これは、もしかすると主人からのメッセージではないかと思いましたが、他人からみれば単なる偶然ともいえる事で、信じてもらうのも無理の話と、あまり他人には話しませんでした。
それ以来私の目標は、沢山の冥土の土産話を持って、旅立ちたいということになりました。そのために、主人の生きた証として、趣味豊かであった主人が遺した写真(自宅裏の池に飛来したカワセミの写真)、エッセイ(NHKラジオ深夜便と山根基世の土曜ほっとタイムの月一回コーナーに提供し続けたカワセミ情報)、日記(苦節10年、人工崖からのカワセミの巣立ちの記録)の整理をして、主人が生前希望していたカワセミの写真文集を出版するために、娘に助けられながらここ2年程は、それに没頭しました。ようやく写真文集の原稿は一段落になったところです。
(出版社のあてはありませんが)今は、主人の日記と一緒に暮らした田舎での生活をもとにした絵本、童話を娘と共に創ろうということになりました。こちらも全くの未経験な二人ですが、主にストーリーは私、文章化は娘ということでスタートしました。先ほどのアナグマ騒動(実は、このアナグマはちょっとした騒動を巻き起こして秋風と共にぷっつりと来なくなりました)を絵本にしてみたいと話し合っている中で、題名はどうしようかと娘に聞かれ、とっさに出た言葉は
「風になったじいじ」でした。
「風になったじいじ」そこでハッとしました。「千の風になって」あの詩は、死者から生者に向けている言葉だと気づきました。主人は、風になって私の絵本を聞いていた、そして、聞いていたよという証としてアナグマが風に誘われるようにやってきたと強く感じました。私は平凡な人間で、霊の存在も死者の言葉も感じることは出来ません。ですから「千の風」は、遺された者が死者にこうあって欲しいという願望で自分の心を癒すための詩だと思い込んでいました。しかし、この詩は、死者の想いを感じられる人々、生者と死者が交じり合っている中で暮らしている人々の間から生まれた詩であるということに気づきました。
今まで確信が持てなかったアナグマの件が、はじめて主人からのメッセージだと信じられ、「千の風になって」と“アナグマがやって来たこと”が一つにつながったような気がし、この詩と歌に改めて感動しました。
講談社より出版された先生の著書を最近読ませていただいた際に、
"アニミズム"という言葉が目に留まりました。実は峯岸家は、約七百年前、祖先がこの地を
四神相応の土地と認め、北の玄武に守護神として
薬師堂を建立したのが始まりといわれております。現在は
御堂(ミドー)という屋号だけが残されておりますが、薬師様はこの土地にずっといらっしゃると、気学の先生、お寺の住職様に言われ、欠かさず読経をしております。
また、代々受け継がれた大変豊かな自然に恵まれており、この自然こそが、難病を抱えた主人と私の晩年の生活を豊かなものにしてくれました。今回のアナグマによる“小さな奇跡”は、このような背景が関係しているのではと思い、ある意味でのアニミズムではないかと勝手ながら解釈いたしました。おかげで、我が家の土地にいっそうの愛着と感謝の念を持つことができ、ますます山や山野草、カワセミ池やホタル池などの手入れに精を出すことができそうです。
長々と書き連ねてしまい大変恐縮ではございますが、新井先生にどうしてもこの思いをお伝えしたく、またこのように思えたことに御礼を申しあげたく、お手紙を差し上げた次第でございます。ほんとうにありがとうございました。
心ばかりの感謝の気持ちといたしまして、我家で採れた花梨の実で作りました“水あめ”をお送りさせていただきます。ご賞味いただければ幸いです。
末筆ながら、新井先生のますますのご活躍、ご健闘をお祈り申し上げます。
敬具
平成21年3月23日
峯岸美代子
新井満様
追伸
NHKラジオにて、“栃木のカワセミさん”としてリスナーから親しまれた主人を偲ぶホームページを息子が開いております。よろしければ、ご覧ください。
「翡翠の詩」 http://www.kingfisher-nobu.com/
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後日、新井満さんからお返事を頂きました。
それはまた次回